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第七回台中日本語教師勉強会(『みんなの日本語』26課「んです」の教え方 「ノダ」とは何か)

· 勉強会
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*2019年に樂多(http://roodo.com)ブログがサービス終了となったため、こちらへ移動させました。10年も前の記事ですが、「んです」についての基本的な考え方は変わっていません。(犬山)

→ 動画 犬山の授業風景の切り取り(2023年12月) https://youtu.be/iRL7aCRfdd4

 

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今回の勉強会には12名の方が参加してくださいました(台湾人6名・日本人6名)。みなさん本当にありがとうございました。


テーマ: 「んです」の教え方
司会・進行: 丹田
導入例の実演: 松本&犬山

 

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■Hさんの感想
今回の「んです」については、今まで自分ではあまりフォーカスしていなかった点(まず前提があるということ)に気づくことができ、本当に勉強になりました。他の先生方の意見(誤用やどういったときに使うか、についての議論)などもとても参考になりました。
お二人の先生の導入部分の模擬授業はとても分かりやすく、学生の立場から「んです」を使う場面がどういうときなのか、明確に理解できると感じました。
ただ、今使っている教科書にそって教える場合、この導入は使いにくいので、この勉強会で学んだことをベースに、少し授業を考えてみようと思います。少なくとも私の中では、「んです」の理解が少し深まったように思います(まだ消化し切れていないところもたくさんありますが...)。

 

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■犬山から一言
今回のテーマは『みんなの日本語(大家的日本語)』第26課の「んです」について。これは、本当に一筋縄ではいかない教師泣かせの単元で、当日(12日)もいろいろな意見が出されました。当初は議事録として、みなさんに配ろうと思っていたのですが、うまくメモがとれなかったので(どうもすみません……)、ここでは私(犬山)個人の授業での扱い方について書いてみたいと思います。みなさんのご意見をお聞かせ願えれば幸いです。

 

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「んです(ノダ)」とは何か。
これは非常に難しい問題で、おそらくきちんとした答えはまだ出ていないと思われます。そのせいか、教科書・教師用指導書などでも、「説明」「確認」「強調」「好奇心」などわかったようなわからないような微妙な解説になっており、教師及び学習者を悩ませる原因にもなっています。
そこで、私(犬山)は26課を教える時点では、とりあえず次のように考えることにしました。(これが正しいかどうかはともかく、こう考えると、授業中の学習者への説明を非常にシンプルに行うことができます。)

「ノダ」は「ノデ」が倒置表現(ここでは「ノハ構文」とする)によって、後置されたものである。
(例)
雨が降ったノデ、道が濡れている。

道が濡れているノハ、雨が降ったノだ。

(前半は言語化されない)雨が降ったんですか。

ここでは以下のような形を「ノハ構文」としておきます。

 

1) 6時に起きた。

 → 起きたノハ6時ダ。
2) この本のおかげで試験に合格できた。

 → 試験に合格できたノハ、この本のおかげダ。
3) 日本のアニメが好きだから、日本語を勉強している。

 → 日本語を勉強しているノハ、日本のアニメが好きだからダ。

4) 雨が降ったので、道が濡れている。

 → 道が濡れているノハ、雨が降ったのダ。

 


同様に「ノデ」を含む文を「ノハ構文」にすると、「ノダ」が出現します。
一番わかりやすい第26課のB-4から見てみましょう。

 

例) 父の仕事を手伝うノで、会社の仕事をやめます。

→(会社の仕事をやめるのは)、父の仕事を手伝うノです。

 

1 今のうちは狭いノで、引っ越します。

  →(引っ越すのは)、今のうちは狭いノです。

 

2 グループ旅行は好きじゃないノで、社員旅行に行きません。

→(社員旅行に行かないのは)、グループ旅行は好きじゃないノです。

 

以下同。

ここで、もう一度まとめます。
XノデY ⇒ YノハXノダ ⇒ (Yノハ)Xノダ

 

「んです(ノダ)」は、Y部分を認知した話者が、その原因理由にあたるX部分だけを発話する形式だと考えます。

 

B-1も同様に
例 雨が降っているので、傘が濡れている。

  →(傘が濡れているのは)、雨が降っているんですか。

 

1 山へ行くので、そんな格好をしている。

  → (そんな格好をしている/登山帽をかぶり、リックを背負い、登山靴をはいているのは)、山へ行くんですか。

 

「んです」がある時とない時の違いは、上の「Yノハ」の部分があるかどうかということになります。

 

A どこへ行きますか。
B どこへ行くんですか。

 

Bの場合、「んです」が必要になるのは、「(Yノハ)どこへ行くんですか」と、前提となる状況があるからです。

 

例えば、《駅で偶然先生に会いました》
わたし: あ、先生! [ここにいるノハ]どこへ行くんですか。
先生: あ、こんにちは。[ここにいるノハ]友達を待っているんです。

[先生がここにいる]という状況の理由を聞くために「んですか」が必要になり、その理由を答えるために「んです」が必要になっているのだと思います。「(在這裡的理由是)友達を待っているんです」。
ですから、授業では《中国語で「~的理由是~」と言える場合だけ「んです」を使います》と教えるのはどうでしょうか。

 

ですから、以下の質問に答える時、「んです」が使えない理由も明らかです。

 

Q 日本語が上手ですね。どのくらい勉強したんですか。
A1  3年ぐらい勉強したんです。(×)
A2  3年ぐらい勉強しました。(○)

 

質問は、「日本語が上手なのは、どのくらい勉強したんですか」という形で、「日本語が上手だ」ということを前提としています。それに対して、「日本語が上手なのは、3年ぐらい勉強したんです」と答えることは、「日本語が上手だ」という前提に同意したということです。ここで答える場合には、「日本語が上手な理由」を答えるのではなく、単なる事実を答えるということなので、「んです」は不要になります。

Q おもしろい写真ですね。[こんなおもしろい建物が写っているノハ]どこで撮ったんですか。
A1 京都で撮ったんです。
A2 京都で撮りました。
この場合は、「んです」があってもなくても、どちらもそれほど違和感はありません。というのは、「写真に特別なものが写っている」という前提については、同意しても嫌味には聞こえないからでしょう。

26課では、「んですが」についても、
A-5 (依頼の理由を説明)
資料が欲しいので、今電話しています。→(わたしが今電話しているノハ)資料が欲しいんです。

A-6 (質問の理由・動機を説明)
さくら大学へ行きたいので、あなたに質問しています。→(今こうやってあなたに聞いているノハ)さくら大学へ行きたいのです。
このように、26課にかぎれば、全て「理由」という説明で事足りるのではないでしょうか。中国語で、「~的理由是~」と言える場面では「んです」を使う、というふうに教えられるのではと思います。
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実際の授業でどう扱うか。

まず、前提(言語化されていない部分)の確認をする。練習B-1から。

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T:友達が来ました。どんな様子ですか。

S:傘を持っています。

S:傘に雨がついています。

S:濡れています。 …その他

  ↓

T:どうしてだと思いますか。

S:雨が降っていると思います。(21課 普通形+と思う)

  ↓

T:友達に理由を聞きましょう。

  ↓

S:雨が降っているんですか。

 

上記のように、一度「〜と思う」の形で考え、それを「〜んです」に変えて、発話するという段取りで練習を行う。

以下も、

T:友達がいます。どんな様子ですか。

S:大きなかばんを持っています。登山の帽子をかぶっています。

  ↓

T:どうしてだと思いますか。

S:山へ行くと思います。

  ↓

T:友達に理由を聞きましょう。

S:山へ行くんですか。

 

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