[本] 『8週間語学の旅 水先案内人はずれっちと様々な言語の海へ』山本冴里 (KADOKAWA)
「旅」は過程こそが輝く――。
どうして言語を学ぶのか。生成AIの翻訳が「使える」レベルにあり、誰もがスマホを片手に生活している今、わざわざ新しい言語を時間をかけて学ぶ意味が本書には示されています。
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語られるのは、著者が大学で実際におこなっている授業の実践報告です。このクラスでは教師が一つの言語を教えるのではなく、一人一人の学生が興味を持った言語をそれぞれバラバラに学んでいきます。教師はその8週間の旅路を導く「水先案内人」。
このコース設計が本当によくできている! 学習者が自主的に目標言語の文法的な面に目を向けるような工夫、また文化的背景を調べて考えるような課題設定のタイミングや強度が絶妙なのです。同じ語学教師として、非常に参考になり、メモをとりまくりでした。帯には「言語学習者必読」とありますが、これは「言語教師必読」です。
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最初に本書の題名を見たときは「ふーん、言語学習を旅に喩えたのね」と軽く思っていたのですが、読み進めるうちに「この比喩はホントに的確だ」と感じます。旅は、新たな世界を目にすることで視野を広げ、そして帰ってくることで、それまでの「自分の居場所」が全く違って見えるという体験を与えてくれます。「帰って来る」までが旅なのです。これは本書の中で紹介されている学習者の方々のコメントによく現れています(学習者のコメント、これは本当に読みどころです。ストレートにおもしろい)。
人の認識のほとんどが「言語」でおこなわれている以上、新しい言語を知ることは文字通り世界が広がることです。三次元の移動こそないものの、新しい言語を知ることは「旅」そのものと言えるかもしれません。
恐ろしいことに、昔はSFでしかなかった「どこでもドア」が言語翻訳の世界では(ある程度)実現してしまっています。途中経過はすっとばして、とりあえず「目的地/翻訳結果」だけは瞬時に手に入れることが誰にでも可能です。しかし、だからといって「旅」の価値がなくなることはないでしょう。時間をかけ、頭を使い、驚き、それらの体験を誰かと共有することこそが旅の醍醐味。
それを味わうために、自分もこの山本先生の授業に学習者として参加したい! この授業を受けることができた学習者の方々が本気でうらやましいと思える一冊でした▼
*本書はKADOKAWAより献本していただきました。遠い所、送っていただきありがとうございます。